認知バイアス辞典

循環論法 前提のなかに結論をあらかじめ入れておく論法。たとえば「彼のいったことは信用してよい。なぜなら彼はよい人だから。そうして彼がよい人だということは、彼のいうことは信用してよいということからわかる」
チェリー・ピッキング  数多くの事例の中から自らの論証に有利な事例のみを並べ立てることで、命題を論証しようとする論理上の誤謬。「いいとこどり」「つまみ食い」の意
ギャンブラーの誤謬 結果がランダムかつ独立した確率過程で決まる仕組みであっても、発生頻度が特定の期間中に高かった場合に、その後の試行におけるその事象の発生頻度が低くなると信じてしまう心理現象のことです。コイントスの例、一回目裏、二回目表、三回目表、四回目表が出たとしたら、5回目は裏が出ると予測してしまう。
対人論法 非形式的虚偽で感情に訴える虚偽の一つ。議論に参加する人びとの個人的感情、偏見、傾向、性格、地位などに訴えて、いつわりの説得力をもつ論証。人に訴える論証。
お前だって論法 相手の主張する議論を貶めるために、相手がその主張に沿った振る舞いをしていないと断言するような論法。1:人物Aが、主張をする。2:人物Bが、Aの行動や過去の主張などは、主張に沿ったものではない、と主張する。3:したがって、主張Xは誤りである。
藁人形論法、ストローマン手法、かかし論法 議論において、相手の主張を歪めて引用し、その歪められた主張に対して反論するという誤った論法。例 X:私は雨の日が嫌いだ。Y:もし雨が降らなかったら干ばつで農作物は枯れ、ダムは枯渇し我々はみな餓死することになるが、それでもX氏は雨など無くなったほうが良いと言うのであろうか。
クオート・マイニング 作為的な引用
希望的観測 信念の一形態であり、証拠や合理性ではなく、「そうあって欲しい」とか「そうだったらいいな」という希望に影響されて判断を行うことをいう。 一般に、好ましい結果が好ましくない結果よりもありそうだと予測することを指す。
覆面男の誤謬 認識を事実とすり替えて推論してしまうことである。「神が存在することを示す確たる根拠のひとつは、私の中に存在することである」(前者は事実的問題、後者は認識的問題)。三段論法。前提1:ピーターは覆面男である。前提2:彼女はピーターと知り合いである。結論:したがって彼女は覆面男と知り合いである。
代表性ヒューリスティック ステレオタイプ(代表的なイメージ)と比べて判断するやり方。「外国人っぽい見た目の人は英語を話すのだろう」という推定
合接の誤謬、連言錯誤 一般的な状況よりも、特殊な状況の方が、蓋然性(確からしさや発生確率)が高いと誤判断すること。
リンダ問題 リンダは31歳、独身で、率直に意見を言い、非常に聡明である。大学では哲学を専攻した。学生時代、彼女は、人種差別や社会正義の問題に強く関心をもち、反核デモに参加していた。次の2つのうち、どちらの可能性が高いだろうか。A:銀行の出納係をしている。B:銀行の出納係であり、女性解放運動もしている。Bを選ぶほうが多い。
利用可能性ヒューリスティック 利用可能性ヒューリスティックは、スピーディーな判断を要する場面で、1:頻繁に接しているもの2:個人的に関わりのあること3インパクト4具体性のあるものを利用されがち
係留アンカリングと調整ヒューリスティック 最初に得た情報を手がかりにして推定する方法。1:「トルコの人口は、6000万人以上か、以下か?」ときいてから、「では何人だと思うか?」と推定させる。すると5000万人~7000万人くらいと推定する。2:別の人に「トルコの人口は2000万人以上か、以下か?」ときいてから、「では何人だと思うか?」と推定させる。すると1000万人~3000万人くらいと推定する。
アンカリング効果 最初に提示したアンカーによって考えが左右されてしまうこと
シミュレーション・ヒューリスティック 経験や先入観などから架空のシナリオを思い描いて結果を推定するやり方。1:将来の予想・2:因果推論・3:反実仮想などで仮想なシナリオをつくってしまうこと。

形式的誤謬

前件否定の誤謬 前件が否定されることから後件も否定するところに生じる。例、「ある図形が正三角形ならばそれは二等辺三角形である」「その図形は正三角形ではない」故に「それは二等辺三角形ではない」という推論。二等辺三角形は正三角形以外にもある
 後件肯定の誤謬  後件を肯定することによって前件をも肯定するところに生じる。例えば、「ある図形が正三角形ならばそれは二等辺三角形である」「その図形は二等辺三角形である」故に「それは正三角形である」という推論。二等辺三角形は正三角形以外にもある
選言肯定の誤謬 「A または B である。A である、従って B ではない」という形式の推論。「ゴッホは天才または狂人である。ゴッホは天才である、従ってゴッホは狂人ではない」という形式で、天才と狂人が同時に成り立ちうる可能性を無視している。
四個概念の誤謬

三段論法には通常3つの(論理形式に関わらない)語句が出現するが、4つめの語句を導入することで誤謬となる。「1:魚にはひれがある。2:人間は脊椎動物である。3:魚は脊椎動物である、4:従って人間にはひれがある」は明らかな誤謬。

媒概念不周延の誤謬 三段論法において媒概念が周延的でない。「1:全ての Z は B である。2:Y は B である。3:従って、Y は Z である」の場合、媒概念 B が周延的でない。「1:すべての魚は脊椎動物である。2:人間は脊椎動物である。3:よって、人間は魚である」。

非形式的誤謬

公正世界誤謬 全ての正義は最終的には報われ、全ての罪は最終的には罰せられる、と考える。「我欲に天罰が下った」「カーストが低いのは前世でカルマが悪かったからだ」など、加害者や天災よりも被害者や犠牲者の「罪」を非難する。
早まった一般化  1:カラスは飛べる。2:スズメは飛べる。3:タカは飛べる。よって、全ての鳥は飛べる。
二分法の誤謬 非論理的誤謬の一種であり、実際には他にも選択肢があるのに、二つの選択肢だけしか考慮しない状況を指す。
間違った類推

重大な相違を無視して事象の類似性に基づいて論証(類推)すること。「酒とコーヒーは似たような嗜好品だ。飲酒は法律で規制されている。よってコーヒーを飲むのは法律で規制されているはずだ」

例外の撲滅 例外を無視した一般化を元に論旨を展開すること。「ナイフで人に傷をつけるのは犯罪だ。外科医はナイフで人に傷をつける。従って、外科医は犯罪者だ」。
偏りのある標本 母集団から見て偏った例(標本)だけから結論を導くこと。「(日本在住の人が)周囲には黄色人種しかいない。よって世界には黄色人種しかいない」。
擬似相関(相関関係と因果関係の混同) 相関関係があるものを短絡的に因果関係があるものとして扱う。「撲滅された病気の数とテレビの普及には相関関係がある。よってテレビが普及すれば病気が撲滅される」
前後即因果の誤謬 A が起きてから B が起きたという事実を捉えて、A が B の原因であると早合点すること。呪術と病気の治癒は因果関係ではなく前後関係である。
滑りやすい坂論法、ドミノ理論 いったん坂をすべり出すと最後まで止まることはできないので、最初の一歩を踏み出すべきでない、議論。「Aという事柄は、それ自体は望ましいものであるか、少なくとも道徳的に不正だとはいえない。しかし、Aを認めるとBという道徳的に不正な事柄まで認めざるを得なくなる。ゆえに、Aを認めることはできない」必ずしも誤謬とは限らない。
因果関係の逆転 因果関係を逆転させて主張する。例えば「車椅子は危険である。なぜなら、車椅子に乗っている人は事故に遭ったことがあるから」。「バスケットボールの選手は身長が高い。よってバスケットボールをすると背が伸びる」
テキサスの狙撃兵の誤謬、クラスター錯覚 本来相関のないものを相関があるとして扱う。上官が狙撃兵に腕前を問うたところ、遠くにある壁の標的の真中に命中しているのを指し示したため腕前に感心したが、実は壁の銃痕にあとから標的を描いただけだった、というテキサスのジョークに由来する。
論点の先取 結論を前提の一部として明示的または暗黙のうちに使った論証。形式的には間違っていないが、結論が前提の一部となっているため、全体として真であるとは言えない。「彼は正直者なんだから、ウソを言うわけないじゃないか」。
曖昧語法 文法的に曖昧な文形で主張をすること。「十代の若者に自動車を運転させるべきではない。それを許すのは非常に危険だ」という文章では、若者が危険な目にあうと言っているのか、若者が他者を危険にさらすと言っているのか曖昧である。
多義の誤謬、媒概念曖昧の虚偽 1:湘南の風は目に見えない。2:貴方がたは湘南乃風である。3:故に、湘南乃風は目に見えない。
ソリテス・パラドックス、砂山のパラドックス、テセウスの船、連続性の虚偽 述語の曖昧性から生じるパラドックス。砂山から砂粒を取り去っても依然として砂山のままだが、それから何度も取り続けて、最終的に一粒だけが残ったとき、その一粒だけを指して「これは砂山である」と言えるのか、という問題。テセウスパラドックス(同一性の問題)。ある物体において、それを構成するパーツが全て置き換えられたとき、過去のそれと現在のそれは「同じそれ」だと言えるのか否か、という問題
多重質問の誤謬 質問の前提に証明されていない事柄が含まれており、「はい」と答えても「いいえ」と答えてもその前提を認めたことになるという質問形式。「君はまだ天動説を信じてるのかね?」という質問は、「はい」でも「いいえ」でも「過去に天動説を信じていた」という暗黙の前提を認めたことになる。