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弁証法的行動療法(DBT) - 感情的衝動から自由になる

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1.弁証法的行動療法(DBT)ってなに?

アメリカのワシントン大学の心理学者である、マーシャ・リネハン博士によって開発された実践的なスキルで、Dialectical Behavior Therapyのアタマの文字をとってDBTと呼ばれます。

この療法の特筆すべきところは、境界性パーソナリティー障害(BPD)に苦しんでいる人々に有効であることです。しかし、その他にもうつ病や双極性障害、不安障害などいろいろな問題にも対応できるということです。

中核的な問題は、これらが感情(emotion)、特に圧倒されるような感情衝動性に関係しているからだと思われます。

マーシャ・リネハン 弁証法的行動療法 境界性パーソナリティー障害
Dr. Marsha M. Linehan

そして、マーシャ・リネハン博士自身も、この境界性パーソナリティー障害の当事者ということですから、そういった視点からも、今現在悩んでいる人や苦しんでいる人にとっては大きな助けと考えられるでしょう。

・パーソナリティー障害の医療とのつながりづらさ

パーソナリティー障害には、境界性パーソナリティー障害だけではなく、他にも数種類のパーソナリティー障害があります。おしなべて、簡単にいうとそれらは、「認知」(その人特有の捉え方)や「感情コントロール」などの精神活動が、大多数とは違い(歪みや偏りと呼ぶことが多い)、それにより対人関係などに大きく影響してしまうというものです。

そして、「境界性のパーソナリティー障害」という場合には、不安定な対人関係、自己像、感情(すなわち、感情の調節不全)、および顕著な衝動性の持続的なパターン」を特徴とするということです。

DSM-5では、次のうちの5つ以上に当てはまるものとされています。

  • 見捨てられること(実際のものまたは想像上のもの)を避けるため必死で努力する
  • 不安定で激しい人間関係をもち,相手の理想化と低評価との間を揺れ動く
  • 不安定な自己像または自己感覚
  • 自らに害を及ぼしうる2領域以上での衝動性(例,安全ではない性行為,過食,向こう見ずな運転)
  • 反復的な自殺行動,自殺演技,もしくは自殺の脅しまたは自傷行為
  • 気分の急激な変化(通常は数時間しか続かず,数日以上続くことはまれ)
  • 持続的な空虚感
  • 不適切な強い怒りまたは怒りのコントロールに関する問題
  • ストレスにより引き起こされる一時的な妄想性思考または重度の解離症状

また,症状は成人期早期までに始まっている必要があるが,青年期に生じることもある。

 

1つの問題として、これらパーソナリティー障害群の人が、病識困り感を持っていなかったり、パーソナリティー障害そのものでは、なかなか受診動機となりづらい(2次的な、うつ病や自傷行為や薬物依存などでの受診することがあっても、主であるパーソナリティーに関することは、発見されなかったり)ということもあり、適切な治療などにつながりづらいということである。

・弁証法とは?

弁証法」は哲学の用語であり、起源はギリシア時代にまで遡ります。

しかし、現代で主に用いられている考え方はヘーゲルが主張しているものが、一般的です。

「物事の対立または矛盾を克服し、統一することにより、更に高い次元での結論へと導く考え方」

こういったものの考え方を「アウフヘーベン=止揚(しよう)」するといいます。

A(テーゼ)×B(アンチテーゼ)=C(ジンテーゼ)となる。

DBTでの弁証法とは、より高い視点の発見といった意味で用いられているのだと思いますが、何と何をアウフヘーベンしているのかは、よくわかりません。

ベースになっているマインドフルネスの場合であれば、「メタ認知」と呼ばれるより高次の視座がありますが、それと同じ文脈で語られているのかどうかはわかりません。

または、同じマインドフルネススキルの「理性的なこころ」と「感情的なこころ」を統合すると、「賢いこころ」に至るという意味かもしれません。

DBTの中核スキルにマインドフルネスがあることから、より高い視点から見ることができるようになることを言っているのではないかと、個人的には思います。

2.DBTの4つの主要スキル

DBTでは、人生におけるさまざまな場面(特に圧倒されるような感情に関連したこと:激怒、混乱、孤独、絶望、苦痛、向こう見ずな危険行為、自傷行為、自殺企図、健康を損なうこと、集中困難など)で、我々の助けとなる実践的なスキルを、基本の4つのスキルとしています。

  1. マインドフルネス・スキル
  2. 苦悩耐性スキル
  3. 感情調節スキル
  4. 対人関係スキル

ここでは、4つのスキルに対応した、具体的な行動療法としてのコーピング戦略というものを挙げております。

①マインドフルネススキル(Mindfulness Skills)

DBTの中核スキルである。いま、この瞬間に起きていることに焦点をあて続け、それに集中し、結果としてより良い選択の助けとなるスキル。

 

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※初心者の心とは:DBTは西洋で広まった禅思想にも影響を受けており、アメリカでの禅の立役者である鈴木俊隆(しゅんりゅう、もうひとり有名なのは鈴木大拙)の言った「ビギナーズ・マインド」のこと。対義語としては「熟練者の心」があり、「私はなにも知らない」という態度は、オープンであり、受け入れることができ、純粋であり、あれやこれやの分別や対立がない状態。何かを達成したという態度は、心をある方向に限定してしまい、受け入れるスペースを失ってしまいます。

 

②苦悩耐性スキル(Distress Tolerance Skills)

すぐに対処ができない状況の時に、いったんそれらの苦痛から注意をそらし、リラックスし落ち着くための助けとなるスキル。

 

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③感情調節スキル(Emotion Regulation Skills)

自分の気持ちをより明確に認識し、それに名前をつけて、それらの感情に圧倒されずに耐えることを学ぶスキル。

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④対人関係スキル(Interpersonal Effectiveness Skills)

効果的な方法で、自分の望みや、ノーを言ったり、アサーティブな方法で他者との境界線を設定することができるようになるなどのスキル。

弁証法的行動療法,対人関係スキル

3.まとめ - キーワード

  • 弁証法的行動療法=DBTDialectical Behavior Therapy)
  • 境界性パーソナリティー障害=BPDBorderline Personality Disorder)
  • マーシャ・リネハン
  • 4つの基本的スキル
  1. 苦悩耐性スキル
  2. マインドフルネス
  3. 感情調節スキル
  4. 対人関係スキル

 


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