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リアプレイザル=認知的再評価(Cognitive Reappraisal)

  今回取り上げたい話題は、表題の通りなのですがこれは私自身も含めて深刻な現代病ともいえるものです。ぜひ一緒に探ってみましょう。

 参考にさせていただいたサイトのリンクはまとめに貼っておきます。

 お急ぎの方は飛ばして、4.リアプレイザルを読んでいただければ大丈夫です。

 では先に重要となるキーワードを挙げておきましょう。

  1. 反芻思考(Rumination)
  2. デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と脳のアイドリング状態
  3. 偏桃体とストレスホルモン(アドレナリン、コルチゾール、ACTHなど)
  4. リアプレイザル

ストレス状態が長く続くという現代病

 現代は、何がストレスになるのかということも多様化しているし、ストレスを抱えている状態が、原始的な社会で想定されていたものよりもはるかに長く持ち越してしまうということがおこっています。

 多様化していることの原因としては、情報化社会があげられます。

 そもそも、われわれ現代に生きる人間の1日に得る情報量は、驚くことに江戸時代に生きた人の「一年分」、平安時代に生きた人の「一生分」と言われているそうです。そして得る情報の量は、今でも増え続けているようです。

 個人の中での情報空間や、他の人と共有されている情報世界が拡がることによって、人生が豊かになるどころか却ってストレス状態でがんじがらめにしてしまいます。

 

1.反芻思考(ルミネーション)

 原始の世界では、生命の危機に繋がる情報は、「恐怖」などの感情とともに記憶しておく必要がありました。

 例えば、「あそこの角から、ライオンが出てきた」という情報は、次に出くわした時には生命がないかもしれないのだから、重要な情報として、「恐怖」という感情とともに記憶に留めておいたのかもしれません。

 原始の世界ではそれを記憶しておくことは、個の生命の保存と、延いては種の保存において非常に重要なことだったのかもしれません。あくまで原始の世界では、です。

 先にも書いたように、現代においては、原始の危険のようなものはほとんど取り除かれてきたにもかかわらず、その機能に関しては、変化に対応しきれずにいるのかもしれません。

 それは、情報空間の広さや深さやスピードなどの拡大に、脳の機能がついてこられず、脳は、「恐怖を感じたら反応する」というアンカー(錨)に、情報空間で起った「危機感」も恐怖としてとらえるという、「超正常刺激※1になってしまいました。

 別の言い方をすると、自己免疫疾患のように本来は自分を守るためのシステムによって、自分を苦しめてしまうという誤作動的な状況に陥っています。

 実際に起こった現実としての恐怖には、実際の「こたえ」が出せる(例えば、闘争するか?逃走する?といったように。)のですが、

 しかし、情報空間にまで広がった人間の「思考」は、昨日今日明日遠い未来にまで、思考を働かせることに余念がなくなってしまいました。

 そうして遠い未来にまで備えて「安全」対策を建てるが、それと反比例するように「安心」は失われていくということになっていきます。

 実際にこたえを出せない問いは、延々と反芻されていきます。

 「なんでだろう…?」「なぜ、あんな事になったんだろう?」で表される、「Why?」の自問に、すんなり「Because~」で答えられるような事が少なくなってしまったのです。

 「脳は空白を嫌う」という法則がありますが、ひたすらに「疑問を抱き続ける状態」は心理的に辛いので、心の防衛機制で言われるような「合理化」など様々なことを脳は画策しようとします。

 そうすることによって「あるがまま」からしだいに離れていき、「私」の独特な認知体系(スキーマ)を作っていってしまうかもしれません。

 例えば、疑問状態の落としどころとして、攻撃対象を作り出して攻撃する。攻撃(アグレッション)の方向が、他者であれば「あいつのせいで」となるし、アグレッションが自分の方向に向かうならば「私はなんてバカなことをしたんだろう」などと結論づけるかもしれません。

 そうなると、どの道を選んでも、たとえば①空白状態(疑問を抱いたままの状態)を選ぶにしろ、②他者を攻撃対象としても、③自分自身を攻撃対象にして憐れんでも、いずれの道も葛藤や混乱の状態を続けてしまうのは避けられないというわけです。

 

左は完全なので気にならないが、右は欠けている部分(空白)が気になって空白を埋めようとすることにいつまでも執心する
左は完全なので気にならないが、右は欠けている部分(空白)が気になって空白を埋めようとすることにいつまでも執心する

 反芻は、何度もことばによって記憶として思い出し、思い出すたびに、再体験をし、恐怖という記憶を「強化」していきます。

 「思考」はとてつもなく高い壁を築き上げていきます。築き上げていく過程が「強化」の過程です。

 心理臨床の世界でも、心理的デブリーフィング※2(トラウマ体験や感情を語ってもらう)の手法は否定されており、効果どころか悪化することがあると言われています。

 なぜ、悪化するかというと、体験や感情を語らせることによって「再体験」をしてしまうから、なのではないでしょうか。

 ネガティブな記憶を思い出す再体験は、恐怖という感情を固定的なものとし、さらに強化までしてしまいます。

※1 実物より有り得ない偽物が動物を引き付けてしまっていること。本能的な行動が、過剰に働いてしまい、偽物の刺激にも超正常的に反応してしまう現象。(例:ミヤコドリの実験では、母鳥三個の卵を産んで保温するが、そばに五個の卵を置くと、そちらに移動して五個の方を抱こうとする。また、より大きいものを抱こうとするので、そばに大きさが二倍、三倍というような有り得ない卵を置いてやると、そちらを抱こうとする。)

※2 心理的デブリーフィングは、トラウマとなった体験の詳細やそのときの感情を語ってもらい、治療者は共感的に聴くことで、ストレスの緩和をするとされているが、現在その効果は否定されているだけでなく、悪化する場合も報告されている。

2.デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と脳のアイドリング

 脳は、何もしていないように見えるときでも、危機が襲ってきたときなどにすぐに対応できるように、アイドリング運転のようなことをしています。

 それをデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)というそうです。

 脳の部位で言うと、内側前頭前野、後帯状皮質、楔前部(けつぜんぶ)、下頭頂小葉という部位で構成されているということです。

 何かに集中しているときには、逆に非活性状態になっており、特定の何かに意識を向けていないボーっとしているときなどによく働いているということです。

 いずれにせよ、常にアイドリング状態でいるため、消費エネルギーは大きく、脳の総活動エネルギーの60~70%も消費しているということです。

 例えが適切かどうかはわかりませんが、うつ病の人の中には、過眠の症状の人も多いといわれますが、「寝ても、寝ても疲れがとれない」と言う人も多く、DMNとの関連性があるのかもしれません。

 先の章で挙げた反芻思考や、時間感覚の変容(例えば、仕事における宿題や、締め切りというものの誕生、インターネットやスマホの即時性/即応性や、日中時間の延長など)、物理空間から情報空間にまで延びた恐怖(過去)や不安(未来)という観念。

 また、「未完了の事柄が、完了された事柄よりも、緊張感が持続しやすく、記憶に残りやすい」というツァイガルニク効果※3のように、答えの出しづらい悩みや、頭の片隅で締め切り(まだ未完成)がずっと気になっているというような、長い時間をストレスを持ち越しながら生きていることが常の状態になっていきます。

 そのような状態(常に締め切りに追われたり、恐怖や不安を長期間抱えている)が慢性化していると、常にデフォルト・モード・ネットワークが、休んでいるときにもエネルギーを浪費し続けて、エネルギーの枯渇状態になるかもしれません。

※3 ブリューマ・ゼイガルニクによって示された「目標が達成されない行為に関する未完了課題についての記憶は、完了課題についての記憶に比べて想起されやすい」、つまり達成できなかった事柄や中断している事柄のほうを、達成できた事柄よりもよく覚えているという現象。

3.扁桃体とストレスホルモン

 「恐怖」という感情を「感じる」のか、「作り出す」のかは別にして、

脳の扁桃体という器官は、恐怖=生命の危機につながる事柄を記憶しておこうと騒ぎ出し、増幅しようとするようです。

 大脳辺縁系という古い器官の中に、扁桃体海馬というものがあります。

 原始の条件付けでは、「恐怖を感じるもの」(例えば茂みから出てきたライオン)=「生命の危機」なので、「何らかの対処」(例えば闘争か逃走をする)をしようとします。

 その対処のための準備が、脳が出す指令によって神経伝達物質やホルモンを分泌します。

 それらがストレスホルモンの代表格として名高いコルチゾールやアドレナリンやACTHなどの分泌であり、戦闘モード(又は逃走モード)のスイッチとなります。

 血管を収縮させて血圧を上昇させたり、瞳孔を散大し、心臓血管系を促進し、消化器系や泌尿器系を抑制し、からだが活動しやすい状態をつくります。

 しかし、現代では「恐怖」というものの捉え方が多様化し、たとえば原始であれば「茂みから出てきたライオン」といった恐怖から、現代では、「締め切りが迫ってくる」恐怖や「叱られたことの意味がわからない」恐怖などより長期的終わりが見えづらく抽象的ぼんやりとした恐怖がつけ足されてきました。

 長期的な恐怖というのは、すなわち長期間、ストレスホルモンなどを分泌し続け、戦闘状態に長くさらされ、休むときがないということを表しています。

 戦闘モードや脅威モード(戦闘状態を維持するため、ストレスホルモンが長時間、分泌し続けている状態)が長期化すればするほど、体の状態は疲労し老化していくでしょう。

 ストレスホルモンも出続け、エネルギーの浪費も慢性化してくるともはや、自分自身で何かを変えることは困難になるでしょう。

4.リアプレイル(認知的再評価)

  前置きの文章が思ったより長くなってしまいましたが、

そこで有効になるのが、認知的再評価=リアプレイザルというものです。

 ①感情に対しての「応急処置」と、継続すれば②「感情の筋トレ」となります。

 ごく簡単に言うと、ふだんわれわれの認知(思考)というのは「ことば」によって行われています。

 われわれの頭の中には、常にいろいろなつぶやきのようなもの(思考)で溢れかえっています。

 しかし、その涌いて出てくるようなつぶやきの内容も、人それぞれ異なっています。

 なぜなら、そのつぶやき(別の言い方で自動思考)を出させるベース(土台、別の言い方でスキーマブリーフシステム)が人それぞれ異なるからです。

 そして、独特な経験などの中から作り上げられた、独特な認知的土台(スキーマ)から、湧き出てきたつぶやき(自動思考)を、声に出してであろうと、心の中であろうとつぶやき続けることで、再生や再体験を繰り返すことになり、さらに認知的土台(スキーマ)を、ある一定方向に強めていってしまいます。

 ある一定方向に強化されていくことが、認知の偏りとか認知の歪みと言われることがあります。

 マインドフルネスの含意することとは、「いま、自分が(脳内で)発しているつぶやき(思考)に気づいたり、いま、生起している気分や感情に気づく」ということです。

 気づくということは、外側から「観る」ことを意味します。

 マインドフルネスは、いまの状態に気づくことによって、次の思考や感情の連鎖の生起をストップすることができます。

 非常にシンプルではありますが、注意深くある必要があります。

 リアプレイザルは、いつも生起してくる、つぶやき(自動思考)、特にネガティブなつぶやきが多い人は、そこに目を向け、つぶやきを変えていくという方法です。

 リフレーミングにも近いものがあります。

 認知の機能というのは、常に状況などに対して、1度評価を加えており、その評価が土台になって次の行動に影響を与えます。

 例えば、大勢の人の前でスピーチをする時に、ネガティブな評価を下している人は「ああ、人がたくさんいるな、怖いなドキドキするな、だから失敗するに決まっている」という評価を下し、実際にそのようになってしまうかもしれません。

 それを再評価すると、例えば「おお、人がたくさんいるな、楽しくなってきたぞ、ワクワクするなー」という風に、ポジティブだったり、メリットがある感情表現に替えて言うということです。

 いま、これを書いていて思い出したことは、心理学でいう「吊り橋効果」です。

⇒ドキドキしているから「怖いんだ」と結論づけるのか、

⇒ドキドキしているから「好きなんだ」と結論づけることで、恋愛に結び付けることができました。

 感情に対しての意味づけ(評価)は自由であり、自由であるならば、自分にとってメリットのある再評価をしてあげるほうがよいということです。

 そういう意味で、積極的な行動(認知?)療法であるというわけです。

 ぜひ実践してみてほしいです。極度の不安症などや、長期間に渡って固着化した感情評価を持っている人は、病院やお薬などの治療と並行しながら、日常場面で試してみるとよいかもしれません。

まとめ


参考にさせていただいたサイトは

https://diamond.jp/articles/-/96972 “「脳のアイドリング」が人間を最も疲れさせる”

 

https://r25.jp/article/920991110623169721 “ストレスに効く魔法の一言”

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